店の戸を開けた瞬間、森林の中で感じるあの凛とした気配に包まれるのを感じる。思わず深い呼吸を一つ入れたくなる清らかな間だ。ただひたすら「良きものをつくる。」そのまっすぐな姿勢が、隅々まで清掃の行き届いた空間で、気持ち良くお客様をお迎えしている。安井家らしいウエルカムの合図だ。
安井家のまっすぐな姿勢は、3方ガラス張りで厨房が外から完全に隅の隅まで見渡すことのできる外観からも伝わって来る。隠さず全てをお見せしても良い、いいものを真摯に作っている、その思いからオープンキッチンにしたと言う。
創業昭和2年、初代・安井吉左エ門が東京、隅田川の生きの良い魚を佃煮に製造し、販売したのが安井家の佃煮の始まり。疎開のため2代目・安井竹次郎の生家がある我孫子の地に移り住み、手賀沼、印旛や牛久、霞ヶ浦と製造を続けていくにあたり都合が良く、文豪たちも多く集まる自然豊かな我孫子の地に惚れ込み、そのまま現在店頭で活躍する4代目まで、我孫子の名産品を手がける老舗として続いている。
佃煮とともに名物として知られる鰻は、2代目が我孫子の地に移り住み商品化。たれは、2代目より継ぎ足して継承している秘伝の味だ。製造は国内産の材料にこだわり、生魚から煮るようにしている。川魚は独特の臭みがあるため、魚をあげてから真水の生け簀で1週間丁寧に「生け込み」という作業で泥を吐かせ、臭みを取る作業から丁寧に手掛けている。
製造過程すべてを丁寧に大切に手がけ、素材の味を生かしながらも「おかず感覚」で食べやすい佃煮をつくることが2代目店主の目指したスタイルだ。それは今の4代目までしっかりと受け継がれている。
安井家の佃煮の特徴は何と言っても、素材の良さと食べやすさ。箸が進むよう、煮も深くせず、照りや保存を効かせるために多くの店で使われる「水飴」を極力使わないようにしていると言う。
以前はなかなかに勇気のいる、品格のある小上がりが唯一の食事処であった店内だが、2018年にリニューアルし、「うな重」や「ひつまぶし」「つくだに御膳」をはじめとするお食事をいただけるスペースを拡張した。ご年配の方にも座っていただきやすくするため、テーブル席を多く用意した。今までなかなか入りたくても入ることができなかったお客さまにもとても喜んでいただけているそう。
お昼どきは良きお食事を楽しみに足を運ぶ、友人同士での来店や、遠地からの客人との来店、ご夫婦での来店や仕事のお昼休みにと、多くのお客さまで賑わっている。どのお客さまも、お食事に舌鼓を打ちながら、店先の佃煮を眺め、帰り際のお土産選びも楽しんでいる姿が印象的だ。
鰻をひとくち口に入れると、味覚が面白い発見で興奮することに気がつく。「美味しい鰻ってこういうこと」なんだと。良い鰻を厳選し、完成までの幾重の工程を全てが「均一」に丁寧に手掛けられているということが、味から、そして食感から伝わってくる。身も小骨もとにかく均一、焼きも味付けも見事なほど均一。食べ始めから食べ終わりまで、この美しき感動は続く。伝統工芸品を鑑賞する際の興奮に似た感覚が味わえるなんとも美しく美味な鰻だ。技やこだわりという味の体験。まさに職人のなせる技だ。
子どもと鰻をいただきに行くと、安井家の心配りはさらに身にしみる。何も言わず、さりげなく子どもの分は、彼らのアンテナが敏感に察知するクラスの微細な小骨までを取り除いてくれているのだ。しかも「ほどよく」子どもが小骨のある鰻を食べられたことを、誇らしげに思える程度は残して、だ。3児の父親である4代目だからこその配慮。私たちが、その優しさにハッとするのは、子どもが鰻を平らげる速さと、他のテーブルより鰻が少しゆっくり出てきたことに後から気がつく頃だ。「森林の風」を感じる瞬間がここにもある。
※小骨を素早く丁寧に取り除いていく4代目。
特重¥5,900-、松重¥3,200-、竹重¥2,800-、
ひつまぶし(大)¥5,900-、
うなぎ蒲焼御膳¥3,500-、うなぎ白焼御膳¥3,500-、
つくだ煮御膳¥1,500- 他 ※価格は全て税抜。
注文した鰻のお弁当を取りに来るお客さまも多く、遠方からの親戚や友人などの来客時や、実家へ帰省する際のお土産、訪問先への手土産などに、ローカルが地元の自慢の一品として愛用している。お客さまが受け取る際の、自信と喜びに満ち溢れた笑顔がなんとも綺麗だ。ローカルプライドを垣間見られる瞬間だ。
佃煮も地元の自慢の手土産に、購入しに来店される方が後を絶たない。
購入の際に、誰もが手土産として持参した際に喜んでいただけたエピソードを店主に嬉しそうに話し、そうした良き品を手掛けてくださる店主に感謝をのべる。店主がまた、そうした大切な手土産に選んでいただいたことにお礼を述べる。互いにありがたい絆で繋がり支え合っていることをうかがい知ることができる、そんな会話の絶えない素敵な店だ。
佃煮がこのところ益々お土産として人気な理由を聞くと、甘いスウィーツのお土産をいただくことが多く飽きてしまうので、「ご飯のおかず」に「お酒のお供」にもなる佃煮は、「気の利いたお土産」としてお渡しする方に喜んでいただけることが多いからと教えてくれた。
我孫子は1930年に開場した千葉県最古のゴルフ場である名門「我孫子ゴルフ倶楽部」があり、ゴルフを楽しんだ後の手土産にと足を運んでくださることも多いと言う。名門に通う、良きものを追求し、知り尽くす、「品格ある大人の手土産リスト」に載るというのは、つまるところ、最高品質を表す称号を受賞しているのと同じ、いやそれ以上に価するはずだ。
安井家の商品は<我孫子市ふるさと産品>にも選ばれている。「我孫子は昔から長く続く企業が少なくなってきているが、我孫子が好きで頑張っている若い方や新しい企業も少しずつ増えてきている。我孫子ふるさと産品の活動を通じて、食品だけでなく工芸品や野菜など、様々な良い品をつくり我孫子に何かしらの形で還元したいと頑張っていらっしゃる方々が、周知されていく機会を増やしていくために、少しでもお役に立てるならと活動をしている。我孫子のお土産といえば<安井家>だよね、と有難いお言葉をいただくことが多いのですが、自分たちが周知活動の足がかりになればと、頑張っている。」と4代目の大松澤学さんは言う。
※取材当日外は強風。気遣って下さり、お二人で暖簾を握って撮影に臨んでくださった。
4代目の大松澤学さんは、生まれも育ちも我孫子。我孫子の魅力を聞いてみた。
「街は本当に静か。そしてとにかく人が優しく、いい人ばかり。幼少期の自分の思い出を思い返しても、自分の子供たちの生活をみても、子供がいきいきとしているいい街だと感じる。自然が多く、とても緑が豊かで、子供達が子供らしくのびのびと遊べる場所が本当に沢山ある。手賀沼はそれこそ私が子供の頃は汚れてしまって近づくことのなかった場所ですが、今ではトライアスロンやセイリング、サップなどを楽しめるほど綺麗になり、我孫子のみんなの憩いの水辺になっている。歴史もあり、子育てにとてもおすすめ。」
我孫子の魅力を五感で味わうことのできる「安井家」。
是非お立ち寄りあれ。
我孫子の川や沼から獲れる鮒・鰻や雑魚は、 昔この地に住む人々の大切なカルシウム源。 この自然の恩恵を一般家庭では「佃煮」という庶民の味に調理し、食していた。 この「佃煮」。今では高級品や贈答品として位置づけられているのにも、我孫子の自然がもたらす所以が隠されている。沼から獲れた鰻は色が黒く、江戸では「クロ」と呼ばれて珍重され、それが贈答品の始まりとも言われているように。庶民の味として長年、日本の食文化を見つめてきた「我孫子の佃煮」。この地の風土・気候・自然そして人情が育んだ逸品より、おすすめの3品をご紹介。
全国にファンを持つ看板商品。素材にこだわることは無論のこと、他ではなかなか出せない色の上げ方や味付けに至るまで代々伝わる伝統の技法で手がける鰻の大和煮は、都内有名老舗店にも商品提供を依頼されるほどの、プロをも唸らせる一品。味付けが絶妙で味わい深く、箸がすすむ絶品。
雑魚とは色々な淡水小魚の総称ですが、安井家のざっこは、苦みやクセが少なく、骨ばっておらず柔らかい「鮠(はや)」をメインに作られる。しっかりと噛みしめることのできる食感の中に、サクッとした軽い歯ごたえがバランス良く合わさり、苦みがなく食べやすいサイズのざっこは、お子さまのおやつにも大人のお酒のおつまみにも、おかずの1品にも使える万能な佃煮。
日高産の最高級昆布を使用。素材の良さをストレートに楽しめる佃煮になるよう、昆布を分厚く切り、砂糖と醤油のみで味付け。昆布のもちっとした食感と、風味を生かしたシンプルながら奥深い飽きのこない味わい。日常的に昆布を食す京都からも、わざわざお取り寄せするファンも多い人気商品。昆布本来の味の良さを楽しめるよう、炊きもあえて浅めにしているので日持ちはしません。贅沢に頬張って。
4代目大松澤 学さん。
お人柄の滲み出る、とても優しい口調の大松澤さん。
四代目との会話を楽しみにされているお客様も多くいることが想像できる。
Webサイト:http://www.yasuiya.com/
営業時間:9:00~19:00
定休日:水曜日
住所:〒270-1151 千葉県我孫子市本町3-5-1
電話:04-7182-1225
FAX:04-7182-4102
フリーダイヤル:0120-353-698
EMAIL:yasuiya@extra.ocn.ne.jp
聞き手/ 編集 : 大坪祐三子